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防備録

英語のwebsite, YouTubeが中心。

ミシガン州フリントで起きたこと。 アメリカ化学会の学会誌(website)より。

水道水への高濃度の鉛の混入や茶色く濁った水道水などで政治問題にまで発展したフリント市の上水道ですが、デトロイト市の上水道では使っていた、たった1つの化学品をフリント市上水道施設で使わなかった事が、これら全ての原因であることが分かっています。 それが、リン酸塩です。

フリント市がコスト削減のため、今までデトロイト市から引いていた(買っていた)上水道を、自前で処理すべくフリント川から引いたのが事の始まり。 

日本で報道されている記事を見ると、“フリント川はすごく汚染されており、それが原因で上水道に鉛が混入した” という、“汚染されたフリント川”の上水道への使用が鉛混入の原因としている記事がほとんどのようです。

そして、この問題はほとんどが、汚染された河川を水道水に利用した事、フリント市の黒人比率の高さ、行政の対応の遅さ、といった観点から、科学的視点よりも、環境的人権問題、さらには人種差別として語られることがはるかに多いと思います。

フリント市上水道で起こった事をもう少し化学的に見ると、違う事実が見えてきます。

語られていない、科学的(化学的)な視点:

鉛のパイプが上水道に使われているのは、フリント市だけではありません。米国東海岸の都市、ボストンやワシントンD.C.には、何十年も使用されている多くの鉛のパイプ(あるいは鉛を含んだパイプ) が今も残っています。 

このようなパイプは、ミネラル層(mineral crust)がパイプの内側に堆積していて、そのミネラル層がある種、鉛の水道への溶出を防ぐ役割をしています。 そしてこのような都市では、鉛が上水道に溶け出さないように、上水道の水質をコントロールしています。
その1:リン酸塩の使用
リン酸は鉛や鉄と反応し、その表面に不動態を形成する(passivation) 性質があり、これがその金属表面の酸化を防いでいます。デトロイト市を含む多くの古い鉛パイプが残る都市では、リン酸塩を水道水に加え、鉛(鉄などの金属を含む)の水道水への溶出を防いでいます。フリント市の水道施設では、リン酸塩を加えていませんでした。
その2:pHのコントロール
リン酸塩のみならず、pHのコントロールも鉛の溶出防止には重要な働きをしています。 アルカリ性pHは鉛の溶出を防ぎ、酸性pHは鉛の溶出を促します。例えばボストン市では、上水道のpHを年間を通して 9.6 位にコントロールしています。 フリント市では、水道のpHが1年を通して下がり続けており、pHがコントロールされていなかったことが伺えます。

実際にフリント市で起こったこと:

 2015年4月25日に水道水をデトロイト市から切り替えて間もなく、問題が出てきました。はじめに、赤っぽい色の水ととても不快な匂いが報告されました。これは、リン酸塩を水道水に加えていないため、鉄や鉛の水道パイプの内側にあるミネラル層が分解され、水道水と共に出て来たことが考えられます。

2015年の8月と9月に、フリント市は大腸菌の水道水への混入を認め、各家庭で煮沸殺菌するように警告を出しました。これは、水道水の2次感染を防ぐために加えられている残留塩素が、ミネラル層が分解された後の鉄や鉛の水道パイプと反応して消費され、その役割を果たさなくなったためと考えられます。

こうして、ミネラル層が分解された鉛の水道パイプが、水道水への非常に高濃度の鉛の溶出へと繋がって行きました。

今日のエントリーは、下記 Website の要約になっています。
アメリカ化学会の学会誌に掲載された、“なぜ鉛がフリント水道水に混入したのか”

How Lead Ended Up In Flint’s Tap Water | February 15, 2016 Issue - Vol. 94 Issue 7 | Chemical & Engineering News

“Most important, the treated Flint River water lacked one chemical that the treated Detroit water had: phosphate.” 
- 最も重要なことは、フリント上水道には、デトロイト上水道には含まれていた化学品が1つ欠けていた事です。それがリン酸です。

“The entire Flint water crisis could have been avoided if the city had just added orthophosphate”
- 全てのフリント水道クライシスは、もしフリント市がリン酸塩を加えてさえすれば防ぐことが出来たであろう。